• 2013.5.20 橋下大阪市長・日本維新の会共同代表の「『軍』には『慰安婦制度』が必要だった、米軍兵士には『風俗』業の活用が必要」発言に抗議し、撤回・謝罪・辞職を求めます

    投稿 5月 20th, 2013

    公人による性差別をなくす会は、5月20日に、橋下大阪市長・日本維新の会共同代表宛てに、以下の声明を送付しました。
                   ○○○○○○○○     ○○○○○○○○                                         

    橋下大阪市長・日本維新の会共同代表の「『軍』には『慰安婦制度』が必要だった、米軍兵士には『風俗』業の活用が必要」発言に抗議し、撤回・謝罪・辞職を求めます
                                    
                                       2013年5月20日
                                       公人による性差別をなくす会                                

    私たちは、石原慎太郎前都知事の「ババァ」発言の撤回と謝罪を求めたことをきっかけに、政治家など社会的な影響力のある公人の差別発言をチェックし、撤回を求め、同じことが繰り返されないように取り組みをすすめてきました。橋下大阪市長・日本維新の会共同代表についても、TV局の情報提供番組に出演するようになった弁護士時代に遡って調査検討し、橋下大阪市長の発言の問題点や政治的手法の危険性を指摘してきました。本年5月13日に橋下大阪市長が行った記者会見における発言及びその後のツイッターなどで繰り返し発信している見解は、もはや公人として容認しがたいものであり、政治家として失格であることを確信させるものでした。


    橋下大阪市長の発言要旨は以下のようなものです。
    ① 侵略については学術上きちんとした定義はない。
    ② 戦時は日本のみならず慰安婦制度を活用しており、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、そんな猛者集団というか、精神的にも高ぶっている集団は、どこかで休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度が必要なのは誰だってわかる。
    ③ 日本が、国を挙げて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難しているが、違うところは違うと言わなければならない。日本国が、韓国とかいろんなところの宣伝の効果があって、さながら「レイプ国家」だと見られてしまっていることが一番の問題である。
    ④ 米軍普天間飛行場司令官に、もっと「風俗」業を活用して欲しいと言った。司令官は凍り付いたように苦笑いになって「米軍では禁止だ」と言っているが、そんな建前みたいなことを言うからおかしくなる。


     橋下大阪市長の発言には、以下の点で重大な問題があります。
    第1に、侵略の定義が定まっていないとの認識は、国際法の発展を無視するものです。国際連合は既に1974年に侵略の定義に関する決議(国際連合決議3314号)を採択しており、2010年6月11日には、国際刑事裁判所ローマ規程再検討会議において前記決議に独自の定義を付加した規程改正決議が111カ国の賛成により採択されています。この橋下発言は、国際社会が平和と人権の確立に向けて積み上げてきた努力を無視するとともに、侵略戦争を容認するものです。
    第2に、日本軍が設置・運営した「慰安所制度」は、「軍」による女性に対する暴力が組織化された形態でした。そこで女性たちにふるわれた組織的かつ継続的な行為が、いかに女性の名誉と尊厳を深く傷つける人権侵害であったかは、元慰安婦の人たちが力を振り絞って告発した数々の証言から明白です。この組織化された性暴力が人道に対する罪となることは、国際社会における確立した知見になっています。河野談話は、そうした数々の証言をもとになされたもので、国際社会が批判しているのは、これを否定するかのような日本の動きです。そうしたなかで、「慰安所制度」を容認した発言は、事実認識を誤っただけでなく、犯罪を擁護し、人権を尊重する意識の著しい欠如を示すものです。
    第3に、「軍」には「風俗」業の活用=買春が必要であるとか、性犯罪を抑制するには性のはけ口を用意する必要があるという発言は、本末転倒も甚だしく、女性に対する暴力を慫慂(しょうよう)するものであるばかりか、性別を問わず人間を冒涜する人権侵害発言です。しかもこのような考え方が政策上も議論に値するとの表明に至っては言語道断というべきです。
    第4に、これら一連の橋下氏の発言は、従軍慰安婦として尊厳を深く傷つけられた女性や基地から派生する暴力によって被害を受けた人々にとってみれば拷問に匹敵する苦痛です。基地負担を抱える沖縄の人々や侵略戦争によって筆舌に尽くしがたい被害を被ってきた近隣諸国の人々への配慮のひとかけらもありません。「慰安婦」については、欧米メディアが「性奴隷」と英訳していることなど、国際社会への配慮もなく、日本に対する諸国民からの信頼を根底から損なうものです。


    その後、橋下大阪市長は、世論・政界の「品性・知性に欠ける」「人権侵害である」との批判を受けて、情報提供番組などで、「慰安婦制度を認めたわけではないし必要だったとも言っていない」「日本だけが批判されるのは問題であるとは述べたが、日本が許されるとは言っていない」「風俗を売春ととらえる国際社会の認識を知らなかった」「不適切だった」などと弁解するに至っています。しかし、こうした対応も、橋下大阪市長が特別公務員・政治家として不適格であることをますます確信させるものです。
    まず、橋下大阪市長の本質はまったく変わっていません。
    米軍による性犯罪に触れた発言は、「法律の範囲内で認められている中でね、いわゆるそういう性的なエネルギーを、ある意味合法的に解消できる場所ってのが日本にはあるわけですから、もっと真正面からそういうところを活用してもらわないと、海兵隊のあんな猛者のね、性的エネルギーをきちんとコントロールできないじゃないですか」「建前論じゃなくて、もっとそういうとこ活用してくださいよと言ったんですけどね。」というものでした。そして橋下大阪市長のその後の発言をみても、依然として、性暴力を抑制するためには性的コントロールのための「異性との交流」が必要であるとしています。これは、市職員のわいせつ事案の増加に「風俗」業の利用を推奨することを肯定し、「『何の罪もない人のところに行くくらいだったら、認められる範囲のところで対応しなさいよ』というのが本来のアドバイス」「子どもにもそういうことは言う」「世の中にはこういう解消策があると。それを伝えていくのが本来のアドバイス。風俗を度外視して、どうやってアドバイスするんですかね」などという発言にもあらわれています。このような考え方を自治体や国の政策にも及ぼそうとしているのです。橋下大阪市長が弁護士時代に、「買春は中国へのODAみたいなもの」と豪語していたことからみても、彼の政治家としての本質、資質の根幹に触れるものです。
     また、「戦争という異常な状態のなかで女性を利用するのを皆が認めていた」という橋下発言に対して、「利用され苦痛を加えられた犠牲者の存在を否定するものではないか」と追及を受けると、「記者クラブの人間は無能」「ボクが容認しているわけではない」「軍が必要としていることは皆がわかっている」「登庁時・退庁時の記者会見をやめてもいいのか」など、論点を反らす独特の手法で逃げています。「これまでアメリカ政府にこのようなことをぶつけた人はいなかった」「トータルではよかった」と自己評価し、「日本では橋下やめろといっているが、それは置いといて、世界に発信していきたい。」と開き直っています。
    橋下大阪市長は、メディアを利用して得た高い人気を背景に府知事・市長に当選し、自分が民意であるとして職員に面従腹背を求め、職員には市民を従わせろと命令するなど、何重にもわたって民主主義の原則を犯してきました。そして、人権侵害発言に対する手厳しい批判や辞任要求にも「それは置いといて」として振る舞うことは、もはや民主主義社会において許されることではありません。
    さらに、橋下大阪市長も日本維新の会も、「意図するところとは異なる受け止め方をされてしまう不適切な発言であったが撤回も謝罪もしない」としています。そもそも一連の橋下大阪市長の言動は、言葉の持つ意味を深く受けとめ正しくこれを活かす資質に欠けています。事実を歪曲したり、まったく違う代物にしてしまって自己に都合よく利用することにより、他者を惑わせ支配するというものです。およそ、民主主義国家における政治家として不適格です。それは、橋下大阪市長の府知事就任以降の強引で無責任な政治手法を改めて想起させるものです。


    私たちは、差別と暴力を容認する人権侵害発言に対して強く抗議するとともに、即刻これを撤回し、謝罪するよう求めます。
    橋下大阪市長は特別公務員の地位にあります。憲法第99条は、公務員らの憲法尊重擁護義務について「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」とし、さらに、憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」としています。一連の発言は大阪市長としてなされたもので、憲法及び条約の遵守義務に真っ向から抵触するものです。まさしく最高法規によって自らに課せられた義務と責任を放棄したという以外になく、特別公務員として著しく不適格と言わざるを得ません。
    1995年の沖縄の米兵による性暴力事件に触れて、当時の太平洋軍司令官が、「レンタカー代で女が買える」と発言し、即刻その責任を問われ辞任したことに鑑みれば、橋下氏は、即刻市長を辞任し、政治家としても引退すべきです。
    石原都知事の性差別発言に対する損害賠償請求訴訟が世界に発信されたとき、ドイツの小さな町のお医者さんが地域の人たちから集めた署名を大使館を通じて送ってくれたことを、私たちは今でも忘れません。その署名は、石原都知事はいますぐ都知事を辞めるべきだというものでした。橋下氏を大阪市長として、また政治家として許している私たち自身と日本における民主主義のあり方が問われていることを肝に銘じ、ここに強く市長の辞任と政界からの引退を求めるものです。

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