• 2011.1.25 「人権委員会設置法」(概要案)

    投稿 1月 27th, 2011

    差別から救済される機関の必要性から、私たち、公人の性差別をなくす会では
    「人権委員会設置法(案)」概要を作成しました。憲法遵守義務のある公人
    の差別を許さない、という点に重点を置いています。

    「人権委員会設置法」(概要案) 

     

                               2011年1月25日

    石原都知事の女性差別発言を許さず、公人の性差別をなくす会

     

    1、法案の名称

    法案の名称は、人権委員会設置法(案)とする。

     これまで政府、政党、弁護士会、NGOなどで同趣旨の法案が検討されている。

    パリ原則に基づく国内人権機関の主な要件は、「権限及び責務が法律に明確に規定されていること」「独立性、多様性の保障」「他機関・NGOとの協力などの活動方法」「準司法的権限を有する委員会の地位」の4本柱である。差別からの迅速な救済を始め、相談、予防のための教育や研修の実施など、人権推進のための多様な活動を行う機関としてこの法律の名称を「人権委員会設置法(案)」とする。

     

    2、法律の目的

    日本国憲法、国際人権規約をはじめとする国際人権条約などに保障されている基本的人権をすべての人が平等に享受することを保障するために、人権侵害からの救済を目的とする人権委員会を設置する。同時に、人権委員会はその目的達成のために人権意識の普及啓発を目的とする。

    憲法及び人権諸条約が保障する人権を回復し、人権侵害を生じさせないための機関を法律に基づいて設置する。これまでの国内法では人権の確立にとって不十分であり、憲法や条約がきちんと活かされていない。言うまでもなく、日本が批准した国際条約は国内法と同じ効力を持ち、国連が採択した人権条約、人権規約は、国内の人権実現のための目標でなければならない。憲法や国際人権条約などに規定されている基本的人権をすべての人に実現するため、人権を確立していく多様な活動や、人権侵害があった場合の救済を行う人権委員会を置く。この目的のための効果的な任務を行う組織と活動原則が、この法によって規定される。

     

    3、定義

    3-1「人権」の定義

     憲法及び国際法上認められるすべての人権                    

     現在存在する人権侵害、あるいは将来生じる可能性のある多様な人権侵害に対応できることが重要である。批准した国際条約には国内法と同じ効力を持たせ、また今後、国連が採択するであろう新たな人権条約などについても、人権委員会が任務を推進していくために機能を発揮しうることを保障するものとする。

     

    3-2「人権侵害」の定義

    合理的な理由なく憲法、国際人権条約及び法令で規定された人権を制限または否定し、侵害するすべての行為をいう。合理的理由または以下の差別の定義にいう合理的配慮とは、すべての人が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、または行使することを確保するために必要かつ適当な変更および調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失しまたは過度の負担を課さないものをいう。

     

    3-3「差別」の定義

    ① 直接差別:合理的理由のない制限、分離、排除、制限、不利益扱いまたは優先である。② 間接差別:一見中立的な基準などを適用することにより、特定の集団及び個人に不利な結果をもたらし、合理性がなく正当化出来ないことをいう。

    ③ 合理的配慮の欠如:妊娠・出産、障害、疾病または年齢を理由とする差別的取り扱いについては、合理的配慮の欠如を含む。

    但し、平等を推進するための暫定的特別措置は、差別的扱いとはみなさない。

    人権委員会の任務の前提となる「人権の定義」、「人権侵害の定義」、「差別の定義」については、人権の範囲、救済対象を狭めず、侵害行為が看過されないようにすることが必要である。そのように対応出来るよう、定義を行った。

     

    3-4「差別禁止事由」

    人種、民族、国籍、信条、性別、年齢、門地、社会的身分、障がい、疾病、性的指向、皮膚の色、出生、婚姻上の地位、家族構成、性的自己認識、病原体の保持、民族的・公民的出身、言語、など。

     差別禁止事由は列挙し、さらに今後の新たな差別事由に対応できるように「など」を入れておく。

     

    4、組織

    4-1人権委員会の組織

     人権委員会は内閣府の外局として置く。                      

    人権委員会はパリ原則に適合し、政府からの独立性を有する。そのため、独立行政委員会として設置し、総合調整及び実施機能をもつ内閣府の外局とする。

     

    4-2 中央人権委員会と地方人権委員会

     国は、中央および地方に人権委員会を設置する。中央委員会を国に、地方委員会を都道府県に置く。

    委員会は、その権限と経費において独立性を有する。

    中央委員会と地方委員会はそれぞれ独立した機関とし、中央委員会は、①国の公務員による人権侵害、②2つ以上の地域にかかる人権侵害、③全国的に重大な人権侵害に関して、人権救済や予防を行う。地方委員会は、区域内の人権侵害の救済や予防を行う。

     

     

    4-3 人権委員会の委員

    4-3-1 委員の任命手続きと要件

    ・任命権者は、中央、地方いずれの人権委員も内閣総理大臣とする。・国会に設置された推薦委員会の推薦に基づき、両議院の同意を得て任命する。

    ・委員の要件は、人権に関する高い識見、必要な知識と経験を有する者であり、推薦委員会の推薦を得て選任する。

    ・委員の構成は、一方の性が2/3を超えない。

    ・委員の構成は、社会の多元的構成が確保されるものとする。

    ・推薦委員会の委員は、人権委員会の委員と同様の要件及び構成とする。

     中央の推薦委員会は、衆参両議院、裁判所、内閣、メディア、弁護士会、人権団体などから選任される。

    地方の推薦委員会は、都道府県議会、都道府県知事、裁判所、メディア、弁護士会、人権団体などから選任される。

     

    4-3-2 委員の人数と任期

    ・委員の人数を、中央委員会11名、地方委員会5名とする。         ・中央委員会、地方委員会の委員の半数以上を常勤とする。

    ・委員の任期を、中央、地方とも5年とし、再任は1回のみとする。

     

    4-4 人権委員会の事務局

    中央人権委員会及び地方人権委員会に事務局を置く。事務局員は、人権に関する専門的な知識、経験をもつ者で構成する。

    事務局職員の職務は極めて重要であり、人権委員と同様の要件及び情熱を有し、相当数の人数を置く。またそのためにも身分は常勤の公務員であること。

     

    5、人権委員会の任務

    5-1 人権救済申し立ての受理

    ①     人権救済の申し立ては、次のような者、組織が行うことが出来る。・     当事者

    ・     支援団体

    ・     差別の対象になった集団に属する人

    ・     公益目的のNGO

    ・     人権委員会 など

    ②     人権救済申し立ての権利は、消滅時効にかからない。

    ③     人権救済の申し立ては、受理しなければならない。

    ④     何人も人権救済の申し立てにより、不利益を受けてはならない。

    ⑤     人権救済の受理により、相談、調査を開始する。

     

     

    5-2 人権救済手続き

    ①     ①援助-被害者に必要な援助を行う。②指導-加害者に対し、説示、啓発、その他必要な指導を行う。

    ③要請-被害者救済のために実効的な対応を取りうる立場にある者に、必要な措置を要請する。

    ④通告-関係行政機関に事実を通告する。

    ⑤告発-犯罪に該当する人権侵害について、捜査機関に告発する。

    ⑥関係調整-両当事者の合意の上に、調停もしくは仲裁を行う。

    ⑦勧告-加害者に対して、人権侵害行為の中止、被害回復措置、再発防止措置などの必要な措置を要求する勧告を発する。

    ⑧公表-勧告を出した事案のうち、人権委員会が必要と認めるものを公表する。相手方の要求があればそれも併せて公表する。

    ⑨訴訟援助-関係調整の不調により訴訟に至る場合は、求めに応じて資料の提供を行う。

    ⑩差別助長行為に対する差止請求訴訟-人権侵害行為が継続し、その放置が社会的悪影響をもたらすと人権委員会が判断した場合、人権委員会は当該行為の中止及び再発禁止を請求するための訴訟を提起することが出来る。

    なお、④、⑤、⑦、⑧については、異議申し立てをすることが出来る。申し立てがあった場合、人権委員会は、90日以内に、取り消し、変更、却下を行う。 

     

    5-3 調査と公表

    人権委員会は、以下の調査を行い、その結果を公表する。①国内の人権意識と人権の実態、差別的慣行など

    ②国内法の遵守状況、批准した人権条約の履行状況など

    人権状況の調査を実施し、分析を行い、実態や課題について報告を公表する。それを基にさらなる人権の確立を推進するため、行政、立法へ協力を呼びかけ、提案などを行うと同時に、人権教育・研修に活かす。

     

    5-4 人権教育

    人権委員会は、人権教育に関する教育内容を示し、人権教育を実施する。①日常的な人権教育

    ・対象別の人権教育カリキュラムを作成する。人権教育の各対象は、小学生、中学生、高校生、大学生、司法修習生、裁判官及び書記官等の裁判所職員、検察官及び検察事務官等の検察職員、弁護士、矯正施設及び更生保護関係職員、入国管理関係職員、労働行政関係職員、警察職員、自衛官、海上保安官、教員及び社会教育関係職員、公務員、政治家、人権擁護委員、民生委員などとする。

    ・人権侵害防止のためのガイドライン、行動計画の作成

    ・     公務員試験や各種資格試験などに、人権に関する設問を導入する。

    ②人権教育や研修の実施

    ・カリキュラムに基づき、各対象ごとに研修を実施する。

     

    5-5 その他の人権委員会の任務

    ・ 必要な場合の公聴会の開催・ 差別的な慣行の見直し

    ・ 立法、行政への提言、援助

    ・ 非政府組織、国際諸機関との協力や連携

    ・ 国際人権条約の周知と啓発推進

    ・     年間事業報告を国会に行う

    ・     国及び自治体に対し、人権状況改善のために必要とされる援助を求めることが出来る。

     

    6、公権力による人権侵害からの特別救済

    6-1 公権力による人権侵害

    公務員、特別公務員は憲法99条により憲法尊重擁護義務を負い、人権尊重の責務は大きい。

    ・憲法尊重擁護義務を負う者及び機関は、人権尊重の義務を有する。

    ・憲法尊重擁護義務を負う者及び機関は、人権侵害の行為、扇動、活動、及びその援助を行ってはならない。

     

     公権力を有する政治家、首長などによる差別に基づく言動が、我が国では繰り返されている。これらは扇動効果が大きく、差別を拡大するため決して許されてはならない。

     

    6-2 特別救済

    憲法尊重擁護義務を負う立場にある者、機関による人権侵害は、憲法に定める国民の人権を侵す点で重大であり、侵害された者の救済のため特別救済を設ける。人権救済の過程で生じた、人権侵害も同様の扱いとする。

     

    憲法遵守義務を負う公職及び公的な機関による差別的言動は、扇動効果やその波及する問題は国内のみならず国際的にも影響を与える大きな問題である。そのため公権力による人権侵害について、人権委員会は、より強い調査、勧告・警告、救済などの権限を有するものとする。

     

    6-3 特別救済手続きの開始

    憲法尊重擁護義務を負う立場にある者及び機関は、特別救済の申し立てを受領した人権委員会による調査を拒むことは出来ない。

     公務員、公的機関が調査を拒む場合は、懲戒などの処罰を設ける。

     

     

    6-4 特別救済手続き

    ・人権侵害行為者及び機関による謝罪・人権侵害行為者及び機関による人権侵害行為の撤回

    ・人権侵害行為者及び機関または人権委員会による、謝罪や撤回の公表

    ・人権侵害行為者及び機関の人権教育研修受講の責務とその結果の公表

    ・人権侵害の申し立て者及び人権委員会は、懲戒権を有する者に懲戒処分を請求することが出来る。

    ・人権委員会は、人権救済に必要な支援を行う

    相談、カウンセリング、医療、裁判支援など。

    ・人権委員会は、差別助長行為や差別扇動行為について差止訴訟を提起することができる。

     

    *人権擁護委員、民生委員の再編成及び研修等について

    人権委員会による人権確立の推進や実現、人権侵害の予防のためには、各地方に人権に関する専門的知見と経験を持つ人材が必要である。従来の人権擁護委員や民生委員については、カリキュラムに基づく研修を経て再編成する必要があろう。そのため、今後の委員の任命のあり方、組織、人員、処遇などの見直し、人権委員会との協力体制を含め、根本的な検討が必要である。

    .