• オーストラリア人権委員会の役割

    投稿 11月 7th, 2010

    2010年4月27日、キャサリン・ブランソン氏(オーストラリア人権委員会委員長)が日本弁護士会で招かれ講演を行った。

    オーストラリアの人権擁護及び促進におけるオーストラリア人権委員会(*)の

    役割

    (*)法務省訳では、「人権・機会均等委員会」

    http://www.moj.go.jp/JINKEN/public_jinken04_refer07.html

     

    2010年4月27日

    キャサリン・ブランソン氏(オーストラリア人権委員会委員長)

     1 初めに

    (中略)

    私は40分間お話しするように頼まれていますので、この間、私が取り扱ってきたことについて簡単に概略を説明するのがよいのではないかと思います。

    はじめに、オーストラリアでは人権がいかに守られているか簡単にお話ししたいと思います。次に、オーストラリア人権委員会の構成、裁判管轄について少し触れた後、独立した人権機関として求められる基準を定めているパリ原則に基づいた国内人権機関を私たちがどのようにして作り上げたか説明したいと思います。

    その後、大部分の時間を使って、オーストラリアの人権状況を改善するために私たちがどのように活動しているか、皆さんの関心を引くような事例をいくつか紹介しながらご説明したいと思います。

     2 オーストラリアではいかに人権が擁護されているか

    委員会の機能を理解してもらうために、オーストラリアでは、法律上いかに人権が擁護されているかご説明します。

    オーストラリアはほとんどの主要な国際人権条約(主要な例外として移民労働者権利条約)を批准しています。オーストラリアの法律上、国際条約の批准は、それ自体すぐにオーストラリアの法律に組み込まれるわけではありませんが、議会に対し、国際条約上の義務に従った国内法を作るよう促す役割を果たします。

    オーストラリア議会は包括的な人権擁護法を未だ制定していません。憲法にも権利章典(*)は含まれていません。しかしながら、オーストラリアは判例法と制定法の組み合わせにより、批准した条約の多くの原則を反映しています。しかし、条約の文言が直接法律に書き込まれることはほとんどありません。

    (*)権利章典:政府が基本的人権を保障したもの

    例えば、オーストラリア議会は国際的な人権基準を反映した差別禁止法や、プライバシー保護法、児童擁護法、刑法などを立法化しています。同様にオーストラリアは判例法の国でもあるので、裁判の判決が判例法となり人権の擁護に重要な役割を果たします。例えば、公平な裁判を受ける権利などの主要な原則は、判例法に反映されています―が、それらの人権の擁護は、自由権規約の発効などに見られる国際条約の発展とは大方無関係に発達したものです。

    近年、オーストラリアで特に議論されているのは、憲法もしくは法律による権利章典が必要かということです。つい先週、私たちの政府はそのような手段を制定するのは時期尚早であると再度言及したばかりです。

    このように、オーストラリアでは人権は包括的に擁護されているわけではありません―これらの擁護は幾分ばらばらですが、様々な制定法や判例法の中に、そしてもちろん究極的には人権を尊重する地域社会で暮らしたいというオーストラリアの人々の願いの中に見つけることができます。この人々の思いが、1986年のオーストラリア人権委員会の創設につながったのです。

     3 オーストラリア人権委員会の設立経緯

    オーストラリアにおける人権擁護として私たちの考え得る最も大切な法律のひとつは、国内人権委員会を設立するための法律です。この法律により私たちは権力と機能、責任を与られています。

    オーストラリア人権委員会は独立した権力機関として制定法に基づき1986年に設立されました。その法律は「1986年オーストラリア人権委員会法」と呼ばれています。この法律は、委員長と5人の委員で構成された委員会の根拠となるものです。

    (委員長を入れた)6つのポジションは、現在4人で占められています。私は委員長と人権コミッショナー(委員)を兼任しています。私の同僚のグレアム・イネスは、障がい者差別と人種差別のコミッショナーをしています。別の同僚であるエリザベス・ブロデリックは性差別コミッショナーです(加えて法令上のタイトルはないものの年齢差別もカバーしています)。ミック・グーダはアボリジニとトレス諸島民の社会正義コミッショナーと、オーストラリアの先住民の人権を担当しています。

    皆さんは、法律で委員会がどのような組織で、誰を雇うかということまで決めていないのはなぜかと疑問に思われるかもしれません。予算がついて初めて私たちは空席の公募をするのですが、例外なく、高い資質を持った多くの候補者から応募書類を受け取ります。委員会は現在100人のスタッフを雇っています。そのうち、3分の1が差別や人権侵害についての苦情申立てを処理し、別の3分の1が政策に関わり、残りの3分の1が法律サービスや、広報、企業へのサービスをしています。

     4、オーストラリア人権委員会の権限、責任と機能

    オーストラリア人権委員会法は、比較的緩やかな文言で私たちの責任と機能について規定しています。

    まず、委員会は4つの異なる差別法―性差別禁止法(1984年)、人種差別禁止法(1975年)、障害者差別禁止法(1992年)、年齢差別禁止法(2004年)を管轄しています。

    私たちはまた一般的な人権に対するものとして、自由権規約や子どもの権利条約、職場の機会均等を規定しているILO条約第111号(*)などの国際人権条約に含まれる権利や自由を擁護、促進する責任を負っています。

    (*)ILO条約第111号:雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(日本は未批准)

    社会権規約や拷問禁止条約に関する権限に関しては明確な規定はありません。ですので、ある程度の制約はありつつもこれらの条約の規定する人権問題についても取り組むようにしています:

    ・最初に、自由権規約と拷問禁止条約は重複する規定があります。(*)

    (*)自由権規約を使って拷問禁止条約の領域はカバーできるということ

    ・次に、子どもの権利条約により、子どもやその家族に関する社会権についても取り扱うことができます。

    ・3番目に、アボリジニとトレス諸島民コミッショナーは、先住民に関する経済的、社会的、文化的権利を取り扱う特権があります。

    ・最後に、法律には、私たちが職務を遂行する際、全ての人権の相互補完性と個別性を考慮するよう要求しています。

    これらの権利に関する責任を遂行するため、私たちにはいくつかの法令上定められた機能があります。

    ・差別と人権にかかわる個別の苦情申し立てにつき和解を受け入れ、また、和解により解決するよう努力すること;

    ・人権問題にかかわる裁判手続きに介入すること;一定の権利に関する法律を検証し、それらの法律の改善をしばしば提言すること;

    ・懸念を有する課題について注目を集めるため全国調査を行うこと;そして

    ・地域社会において権利に対する意識、理解そして尊敬を高めるための人権教育を提供すること。

     5 パリ原則の下、委員会はどのように国内人権機関としての資格を与えられているか

    これらの機能の下で私たちが行っている仕事の例を示す前に、法律上、そして業務上のどのような特徴が国際パリ原則の下、私たちに国内人権機関の“A”ステータスを与えているかご説明したいと思います。この点が今日本で問題になっていると理解しています。

    パリ原則で独立した国内人権機関として定義されている特徴としては以下の点があります:

    ・普遍的人権基準に基づき、明確に定義され、広範囲な権限を持つこと

    ・法律により独立性が確保されていること

    ・政府からの自治権が与えられていること

    ・十分な資源(予算)があること

    第一の基準については、既に私たちの持つ権限を説明しました。

    政府からの独立性と自治権については、私たちがどのような問題について、どう取り扱うかということについて―それらの問題と手段が法律上の権限と機能に基づく限り―いかなる政治家からの指示も受けないという事実に基づいています。私たちは独自予算を組んでいます。

    さらに、私たちは現行政府に対してではなく、オーストラリア議会に対してのみ説明責任を負っています。議会における私たちの代表は司法長官が務めますが、司法長官は私たちの議会に対する報告書に何を掲載するかという点について選択権を持っているわけではありません。司法長官は単に厳格に決められた期限内にこれらの報告書を提出しなければならないという、法律上の期限に従う義務があるだけで、私たちが議会に提出する内容を変えることはできないのです。

    最後に、それぞれのコミッショナーと委員長はオーストラリアの国家元首―であるところの総督―により任命されます。その期間は5年間です(私たちの3年ごとの選挙(*)にまたがります)。これらの任命は、政府の助言により行われ、選任手続きは能力主義に基づき行われます。

     (*)オーストラリアの下院任期は3年。上院は任期6年だが3年ごとに半数改選。

    十分な資源について説明しますと、私たちの毎年の予算額は約1900万オーストラリアドル(約15億円)で、主に司法長官の部門(*)を通じて政府から支給されます。これまでの期間、様々な時期において資金は削減されてきましたが、私たちはいつもより多くの事をなすためにより多くの金額を要求してきており、業務に影響が出るほど資金的(に困難)な地位に置かれたことはありません。私たちは世論の圧力が政府がそのような地位に私たちを追いやることを許さないと確信しています。

    (*)司法省

     6 どのような人権問題を委員会で取り扱っているか

    それではいくつか例をあげて、私たちが与えられた機能を使って今まで取り組んできたオーストラリアが直面してきた、また直面している主要な人権問題をご紹介したいと思います。

    そのために、取り組んでいる問題の領域、そしてそれらに対する多元的なアプローチをご説明したいと思います。私たちの成功の多くは問題に対する持続的アプローチに依拠するもので、それは委員会のかかわる他の仕事と無関係に行われるものでなく、私たちの持つ様々な機能の連携を伴っています。

     7 人権状況を改善するための法的介入―女性の人身売買

    私が取り上げたい第一の機能は皆さんにとって特に関心が高いと思われるものです―それは委員会の権限による司法手続きへの介入です。そのような介入の目的は、人権問題の一般原則と公共的に重要な裁判に人権の専門家を供給することです。最終的に私たちは、私たちの提供するものによって裁判官が、裁判所の司法権の許す範囲で、人権を考慮に入れ、または人権の効果を促進するような判断を下す補助をすることを望んでいます。

    委員会は、今まで子どもの医療、障がいを持つ女性の不妊手術、移民など広範囲にわたる問題を含む多くの裁判事例に介入してきました。

    最近の事例のひとつは、委員会が女性の人身売買が関与している事例に介入したものです。

    この事例では、ウェイ・タンさんというメルボルンの売春宿のオーナーが5人のタイ人女性を奴隷として「使用」し「所有」していたことについて起訴され、有罪判決を受けました。奴隷的処遇に対する罪(*)は、長時間にわたる労働に従事させられていたという事実、パスポートが取り上げられたままウェイ・タンさんに負っているという借金45,000ドル(約355万円)を払い終えるまでは立ち去る自由もなく決められた場所に住むことを余儀なくされたという事実に基づくものです。

    (*)「奴隷的処遇に対する罪」―オーストラリア1995年刑法典法第8章第270

    この裁判は、オーストラリアで最も上級の控訴裁判所であるオーストラリア連邦最高裁判所にまで行きました。

    委員会は裁判に介入する許可を与えられ、奴隷的処遇(slavery)の国際法学上の意味に関する報告書を提出しました。私たちは裁判所がオーストラリア刑法における奴隷の定義を解釈し、適応する際の補助も努めました。特に、委員会は、国際法が定義する絶対的な奴隷の禁止は、歴史的概念である「動産としての奴隷制」(*)から発展したもので、国際法学では現代の奴隷制も含むものであると訴えました。

    (*)主人の所有物として動産のように取り扱われる奴隷のこと

    2008年8月、最高裁は多数判決として、刑法における「奴隷的処遇(slavery)」の定義は歴史的概念である「動産としての奴隷」に制限されるものではないとの判決を下しました。委員会が提唱してきたアプローチと同様に、裁判所も奴隷的処遇に対する罪が犯されたかどうか決定するために様々な要素を検討することにしたのです。

    私たちはウェイ・タン裁判への介入を通じて、奴隷的処遇に関するオーストラリア国内法の発展とその解釈について国際人権における義務と一致するように影響を与えることができたと考えます。

     8 個別申し立てがいかに制度的な成果につながるか

    皆さんが関心を持つと思われる別の機能として、苦情処理の機能があります。

    前にお話ししましたように、委員会の資源の大部分は個別申立ての調査と解決に費やされます。委員会は3つの領域に関連する苦情を受け付けます:違法な差別に関する苦情、一般的な人権に関する苦情、そしてILO条約第111号に関する苦情です。

    手続きと救済方法は、それぞれ3つの領域によって少しづつ異なるものの、下記のように要約できます。

    委員会は、個人により申立てを受けた苦情について、それが私たちの権限内にあり明らかに実質を伴っていないことがない限り、状況を調査し、両者の和解に向けた支援を行います。

    和解が成立しない場合には、苦情を申立てた側は裁判所に訴えることができます―しかし、それは申立てが、雇用における性、年齢、人種または障がい者差別に関する場合に限られます。

    他の人権にかかわる申立てで和解が成立しない場合に委員会ができることとしては、議会に提出する報告書に提言を書くことしかありません。

    オーストラリア憲法に書かれている文言上の理由により、委員会は苦情に関し決着を強制する権限や拘束力のある提言をする権限はありません。

    当初は、これが私たちの権限上最も大きな弱点だと思われましたが、それにもかかわらず、私たちは(限られた)苦情処理の権限を通して、いくつか大きな成果を上げてきました。

     8.1 広範囲の集団に変化を及ぼす障がい者差別に関する申立て

    苦情申立てのうち大部分を占める、障がいに基づく違法な差別について例をあげることから始めてみたいと思います。

    これらの申立ての成果としては、個人の生活を変えることができるということです。例えば、和解後、企業が(コンピューターに)文字読み上げソフトをインストールすることに同意することで、目の見えない人がそれまではその人の能力を超えると思われてきた仕事を簡単にこなすことができるようになるのです。

    加えて、障がいに関する申立ては、制度的な変化をもたらすという私たちの普遍的目標を達成するために貢献してくれました。また障がい者差別禁止法(DDA)のような法律に無差別(差別禁止)規定を明記するための、一般的な基準を確立する推進力となりました。

    つい先月、オーストラリア政府は、私たちが推進してきた障がい者基準を議会に提出しました。そこではどのように建築家や建築業者、住宅開発業者が差別禁止法の基準に合うように建物を設計・建設することができるか明記してあるとともに、建築物が障がいを持つ人々が利用しやすいものであることを確認することができます。これらの建物基準は任意ですが、来年の5月以降新しく建設・改築される全ての建物に適用されます。私たちはすぐに国内の建築基準法を変えるよう動き出す予定です。そうすればこれらの建物基準の原則が法的拘束力を持つものになります。

     8.2 差別禁止法上の免除を行使する上での委員会の役割

    差別の苦情申立てに関する私たちの特権の別の局面として、私たちが差別禁止法からの免除を望む当事者に一時的な免除を与え、差別申し立てから彼らを守る権限を持っていることがあります。

    この権限の適切な行使の例としては、免除を与えることで、(申立ての相手側である)個人または企業が、差別禁止法の基準に合うように変更を行う時間を与えることができることです。委員会は(免除を)適用するかどうか判断するための基準を作っており、基本的にこの基準により、(免除の)適用を与える利益と再び苦情申立てができないこととなる当事者との間に合理的なバランスを見出すことができるか検討することとなります。

    差別禁止法に関して話を続けます。委員会は最近、映画の字幕(キャプション)を増やすためにもっと時間が欲しいという映画の放送会社の要求に対し、一時的な免除を与えないことを決定しました。委員会は、以前、テレビ業界に同じような目的のため免除を与えたことがあります。しかし、映画に関しては、継続して免除を与えることを正当化するだけの十分な進展がなされていないと判断しました。

     8.3 補償対象となる拘留に関する苦情申立て

    私たちはまたオーストラリアの入管収容施設にいる人々の取り扱いについて多くの申立てを受けます。これらの申立ては大体において自由権規約で定められた被拘禁者の権利違反を訴えるものです。

    申立ての基となる状況はそれぞれ異なっているものの、委員会は、多くの場合、収容期間や入管の拘留における特殊な取り扱いが非人道的で恥ずべき行為であり、敬意と尊厳をもって取り扱われる権利や恣意的な収容から自由になる権利を侵害していることを知っています。

    過去5年間、委員会は多くのこの種の申立てを和解させることに成功しています。政府は、委員会からの勧告により好意的に応えるようになってきました。それらの勧告には、関係する当事者への謝罪や、申立人に支払われる賠償金についてのものが含まれています。

    先と同様に、移民の拘留に関する個別の申立てについて私たちが行う勧告は、私たちが取り組んでいる、オーストラリアの移民を強制収容する法律(*)を廃止し収容所の状況を改善するという目的のために私たちが使う機能のひとつでしかありません。他の例を挙げれば、私たちは過去12年間でオーストラリアの移民収容政策について2回全国調査を行いましたし、毎年入管収容施設を検査したりしています。

    (*)オーストラリア移民法(Migration Act)のこと

    私たちの人権問題に対する持続的な取組みは、収容の根拠法や、子どもや収容状況に関する政策をいくつか改善することができました。これからも私たちは、法律や、政策、そして実際の運用が人権問題を起こさなくなるまでこれらの問題に働きかけ続けることでしょう。

     9 全国調査を使って主要な人権問題を取り上げ解決する

    ―同性カップル:異性カップルと同様の受給資格に関する調査

    つい先ほど、私たちが移民の収容に関する2つの全国調査を行ったと申し上げましたが、長年にわたり、国内の重要な人権問題に関して様々な調査を行ってきました―それらは、アボリジニとトレス諸島民の子どもの強制移住や、雇用における障がいを持つ人々が直面する差別などの問題に関してです。

    全国調査の目的は、強制調査や、公の協議を行うことによって、重要な人権問題の輪郭を浮かび上がらせることです。公の教義は、公的報告書や教育キャンペーンをもたらす効果があります。

    つい最近行った調査は、オーストラリアにおける同性カップルが経験する差別についてです。本来、この調査は税制、老齢年金、医療保険、老人介護、退役軍人給付金、労災補償、雇用給付金などの分野で同性カップルや彼らの子どもを差別する法律を特定するために連邦法を監査することだけでした。

    この法定監査に加えて、人権コミッショナーとスタッフはオーストラリア国内を廻り、公聴会や地域社会のフォーラムを開き、直接、同性カップルや彼らの子どもに対する差別的法律の影響について聞き取りをしました。それから地域住民が、差別的法律によって彼らが直面する困難などに理解を深め共感するよう彼らの話を公開しました。

    ここでいかにオーストラリアの法律が同性カップルを差別しているか例をあげてお話ししたいと思います。全国労災補償法の下、労働者の配偶者は、労働者が職務中亡くなった場合には死亡手当を受給することができます。しかし法律は「配偶者」の定義に異性の配偶者しか含んでいません。これは同性カップルが、配偶者が異性であるならば受けられるはずのいかなる財政支援や補償も受け取ることができないことを意味しています。

    委員会は58もの連邦法が自由権規約や社会権規約、子どもの権利条約、ILO条約第111号に違反していることを発見しました。

    この不平等問題の解決は私たちの見解からすれば簡単です―それらの法律における「配偶者」の定義を、異性配偶者のように同性配偶者にも平等に法律が適用されるよう変えることです。

    私たちが報告書で勧告したのもこの点についてです。

    その後、2008年、政府は、司法長官が委員会の報告書を議会に提出して1年もたたないうちに、同性カップルに対する差別をなくすため関連する法律を改正すると発表しました。これは、私たちが行ってきた全国調査に対して最も迅速に得られた肯定的成果です。

     10、 社会のすべての部門との協力―SAGE、そして男女(ジェンダー)平等

    まず強調したいのは、私たちの仕事の影響力を高めるために、オーストラリア人権委員会と社会における様々な部門との協力が重要であることです。

    今までの話の中で、オーストラリアで人権を擁護し促進するために、委員会が個人や、ビジネス、政府と何らかの形で協力してきたことを簡単に触れました。

    広範囲にわたる関係者と委員会が協力してきた別の人権政策としては、男女(ジェンダー)平等の分野があります。オーストラリアでは、私が考えるに他の多くの国々と同様に、男女平等に関して進展を図るには、政府の政策の変化以上のことが必要です。しかし、真のジェンダー改革は、職場文化の変化と地域社会の態度の変革がなければ達成されません。

    性差別コミッショナーは、雇用における性差別、女性の経済的安定、指導的役職における女性の進出などの問題に取り組んできました。

    ビジネス、地域社会、政府における指導者や意思決定における女性の進出を増やすことは、男女平等を実現する上で重要な段階であると考えています。オーストラリアの女性は、実質的に職場の全ての部門における指導的役職において、未だ少ない比率に留まっています。

    そのような理由から、私達は多くの重要な団体とともに取り組んできました。その中には、最近、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の原則と勧告を発表し、上場企業に対し取締役と上級管理職のレベルに女性の数を増やすために数値目標を定めるよう要求したばかりのオーストラリア証券取引所も含まれます。

    私たちはさらに産業界、組合、政府などとも長年にわたり、政府出資の有給の育児休暇政策を導入するために一緒に取り組んでいます。この政策は来年施行される予定です。

     

    11 オーストラリア人権委員会と国際機関

    結論に行く前に、人権に関する国連機構の中での委員会の国内人権機関としての役割に簡単に触れたいと思います。

    オーストラリアの人権機関として、オーストラリア政府はしばしば私たちに条約委員会に出す報告書にインプットをしてほしいと頼んできます。その役割に加えて、私たちは、独自の見解を条約委員会に定期的に直接伝えています。さらにCSWや国連先住民問題常設フォーラムなどの他の国際機関にもかかわっています。今年、国連人権理事会の新しい普遍的定期的審査(UPR)制度の下で行われるオーストラリアの初めての審査にも貢献する予定です。

    私たちの経験から言えば、条約委員会やその他の国連機関は、私たちの見解にかなり重きを置いてくれていると思います。いくつかの条約機関は、私たちが作成した報告書のほぼ一字一句を採用してくれています。

    このことこそが独立した国内人権機関が国連の国際人権擁護システムにもたらす価値を実証しています。人権機関が高い評価を受け、さらに強固で独立したものであるならば、その人権機関の研究と成果は、締約国が国際的な人権義務に合っているか、いかに合うようにすべきかということに関する国際社会における見解を形成するに十分なものとなるでしょう。さらにこれが、国内における人権状況を改善するための仕組みの中で重要な道具にもなるのです。

     

    12 結論

    今晩、私は皆様にオーストラリア人権委員会がオーストラリアにおける人権を擁護し推進するために行っている仕事の一部をお話しさせていただきました。皆様が日本の国内人権機関が持つであろう組織、機能、権限を考える際に、今日お話ししたいくつかの背景が有益であるよう願っています。

    ひとつ皆さんに胸にとどめておいて戴きたいことがあります。それは、ひとつの機関の機能だけで、本当に、ひとつの機関だけで人権の状況を改善できる国はないということです。

    オーストラリアは、大抵の人々の生活は大体において良好です―私が思うに、日本でも同様ではないでしょうか。しかし、オーストラリアにも、皆さんが今日話の中でお聞きになったように人権問題は存在します。そして私は、私の国で人権がより恒常的に、より包括的に尊敬されるようになるためにもっと色々なことができると信じています。

    私は、オーストラリア人権委員会の、強固で、独立した、時には率直な声がオーストラリアの人権擁護のために重要な側面であると固く信じています。しかし、私たちは単独では機能しません。私たちの影響力を高めるにはは、必要に応じて、政府機関や、非政府団体、教育部門など本当に社会の全ての部門とともに取り組むことが大切です。

    委員会のビジョンは、人権は、全ての人があらゆるところで日々享受できるものであるべきだというものです。このビジョンを達成するためにいかに私たちが活動しているかということについて少しでも感じ取っていただければ幸いです。

    ご清聴ありがとうございました。

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