• 石原都知事への公開質問状

    石原都知事への公開質問状

    東京都知事であるあなたは、昨年10月から12月にかけて別紙資料(1)~(3)に掲げるような女性蔑視発言を公共の場で繰り返し、今日に至るも撤回していません。発言の主旨は「男にはいくつになっても生殖能力があるが、閉経した女性には生殖能力がなく、生殖能力を失った女性が生きているのは無駄であり罪である。それは地球にとって悪しき弊害であり、惑星を消滅させてしまうものだ」というものです。
    この発言は、女性のみならず高齢者や障害者、出産しない・できない人々を社会的に無用のものとして排除する思想につながる黙過できない発言です。
    あなたは、この一連の発言を、MXテレビでの東大教授・松井孝典氏との対談における松井氏の発言であると紹介し、また、都議会答弁では発言の趣旨を深沢七郎氏の「楢山節考」を引いて説明しています。仮に出所が他者の発言であったとしても、あなた自身が「私は膝をたたいてその通りだと」と共感されたと報道されていますから、これらの発言はあなたご自身の見解と受け取っていいものと判断します。
    ところが私たちの検証によると、一連の発言は松井発言の主旨とも「楢山節考」のあらすじとも違い、そもそもあなた自身の見解だと判断せざるをえないのです。なぜならば、MXテレビ「東京の窓から」のビデオを見るかぎり、松井氏は“人間圏の繁栄が「おばあさん」の出現によってもたらされたという「おばあさん仮説」”について語っていますが、「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァ」であるとか「男は80、90歳でも生殖能力があるけれども」という発言はしていません。また「楢山節考」は“貧困のゆえに男女とも高齢になれば山に捨てられる”という話であり、あなたの言うような“おばあさんだけが捨てられる”話ではありません。このような曲解の中に、あなたの女性蔑視の意図が明瞭に浮かび上がっていると、私たちは考えます。
    このような発言が地方自治体の長である都知事の発言として、都議会をはじめ公の場でなされたことは、別紙資料(4)~(6)に掲げる男女共同参画社会基本法、東京都男女平等参画基本条例、女性差別撤廃条約の趣旨に反しているばかりでなく、東京都政の民主主義と人権尊重のあり方を疑わしめるに十分なものであり、「生きていることが無駄であり、罪である」とされた女性たちにとっては存在を脅かされるに等しい「言葉の暴力」をこうむったことに他なりません。
    あなたの一連の女性蔑視発言について、下記の質問に文書にてご回答下さい。

    1) あなたは、別紙(1)~(3)の発言を、松井孝典氏の発言の紹介としてなされていますが、私たちはこれらの発言はあなたご自身の見解の表明であると考えます。あなたご自身の見解であると理解してよろしいですね。
    2) 「男女共同参画社会基本法」第3条には、「男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的取扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されること、その他男女の人権が尊重されることを旨として、行われなければならない。」と明記され、地方公共団体は国の施策に準じた施策等を策定し、実施する責務を有すると規定されています。また、「東京都男女平等基本条例」第3条には、男女平等参画社会の基本理念として「一、男女が性別により差別されることなく、その人権が尊重される社会、二、男女一人一人が、自立した個人としてその能力を十分に発揮し、固定的な役割を強制されることなく、自己の意思と責任により多様な生き方を選択することができる社会、三、男女が、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動及び政治、経済、地域その他の社会生活における活動に対等な立場で参画し、責任を分かち合う社会」と規定され、都は「総合的な男女平等参画施策を策定し、及び実施する責務を有する」とされています。
    あなたの一連の発言は、国の法を遵守し、かつ東京都の条例を実施し推進する立場にある東京都知事としての責務に反していると私たちは考えますが、いかがですか。
    3) 日本が1985年に批准している「女性差別撤廃条約」には「締約国の義務」の一つとして、「女性に対する差別となるいかなる行為または慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの義務に従って行動することを確保すること。」とあります。あなたの発言はこの規定にも反していると考えますが、いかがですか。
    4) これらの発言は、女性に対して子どもを産むものとしてのみ存在価値を認め、閉経後は生きる価値がなく、生きているのは罪であるとする重大な女性差別発言であり、「言葉による暴力」だと私たちは考えますが、これについてあなたはどう思われますか。
    5) 私たちは、これらの発言の撤回と謝罪を求めます。撤回し謝罪する意思がありますか。また、公の場で釈明する意思がありますか。
    以上
     2002年6月25日
    東京都知事 石原慎太郎 殿
     

    (以下連名)
    東京都内23区並びに22市に在住・在勤・在学の女性447名連名(最終的には468名となる)